『涅槃経』聖行行品(*)にある譬喩。
如有女人入於他舎。是女端正顔貌美麗。以好瓔珞荘厳其身。主人見已即便問言。汝字何等繋属於誰。
女人答言。我身即是功徳大天。
主人問言。汝所至処為何所作。
女天答言。我所至処。能与種種 金・銀・琉璃・頗梨・真珠・珊瑚・虎珀・車磲・馬瑙・象馬・車乗・奴婢。僕使。
主人聞已心生歓喜踊躍無量。我今福徳故令汝来至我舎宅。即便焼香散花供養恭敬礼拝。
ある人の家に一人の美女が訪ねて来ました。
主人:「あなたは、どなたさんですか?」
女:「わたしは福の神です。わたしが行く所では、あらゆる物が手に入り、その家は必ず幸福になります」
主人は、たいそう喜んで美女を家に招き入れて歓待しました。
復於門外更見一女。其形醜陋衣裳弊壊多諸垢膩。皮膚皴裂其色艾白。
見已問言。汝字何等繋属於誰。
女人答言。我字黒闇。
復問何故名為黒闇。
女人答言。我所行処。能令其家所有財宝一切衰耗。
主人聞已即持利刀。作如是言。汝若不去当断汝命。
暫くすると、また女が一人訪ねて来ました。女は先の女とは違ってぶさいくで着物もみすぼらしいものです。
主人「あんた何しに来たか?」
女:「私は貧乏神ですの。私がいくお宅には、財産を失ったりなど、あらゆる不幸が生まれるんですの」
主人「何じゃとぉコラぁ、お前なんかあっち行け、はよ行かんとしばきあげるぞ!」
女人答言。汝甚愚痴無有智慧。
主人問言。何故名我痴無智慧。
女人答言。汝家中者即是我姊。我常与姊進止共倶。汝若駆我亦当駆姊。
女:「あんたは、お莫迦さんねえ。さっきここにお邪魔したのは私の姉で、私と姉は一時でも離れることは出来ないのですの。姉をここに留めておくなら私も留めおかねばならないのですのよ。」
主人還入問功徳天。外有一女云是汝妹。実為是不。
功徳天言。実是我妹。我与此妹行住共倶。未曽相離随所住処。我常作好彼常作悪。我作利益彼作衰損。若愛我者亦応愛彼。若見恭敬亦応敬彼。
主人即言。若有如是好悪事者。我皆不用各随意去。是時二女便共相将還其所止。
爾時主人見其還去。心生歓喜踊躍無量。
そこで、主人は、すでに家の中にいる福の神に確かめると、間違いないということでした。
主人:「いくら福の神でも貧乏神と一緒はいやや、二人ともとっとと出てってくれんか」
と、主人は二人を追い出してしまいました。そして二人を見送りながら歓喜踊躍せんばかりに喜びました。
幸福と貧乏、楽と苦の例話であるが、禍福はあざなえる縄の如しというように、この世の中は楽と苦が同居しているということである。
御開山は「真仏土文類」で
善男子、大楽あるがゆゑに大涅槃と名づく。涅槃は無楽なり。四楽をもつてのゆゑに大涅槃と名づく。なんらをか四つとする。一つには諸楽を断ずるがゆゑに。楽を断ぜざるは、すなはち名づけて苦とす。もし苦あらば大楽と名づけず。楽を断ずるをもつてのゆゑに、すなはち苦あることなけん。無苦無楽をいまし大楽と名づく。涅槃の性は無苦無楽なり。このゆゑに涅槃を名づけて大楽とす。この義をもつてのゆゑに大涅槃と名づく。(*)
の『涅槃経』の文を引文されて、涅槃(浄土)とは楽を断じ、苦を断じるから涅槃であり大楽だとされる。そもそも:四顛倒といわれ、無常・苦・無我・不浄のこの世を常・楽・我・浄と思うことは迷いなのだが、この言葉の意味をひっくり返して涅槃(浄土)の徳を、常・楽・我・浄というのが『涅槃経』が言わんとするところである。
いわゆるAはBを待ちBはAを待つというように、相対関連して存在することを仏教では相待(そうだい)というのである。このような楽と苦を超えた世界こそが浄土であるという意味である。
巷間では、「絶対の幸福」を求めるなどと標榜する浄土系の宗教団体があるのだが、御開山は、そのようなものは浄土においてのみ実現できるのであると、
と、誡めておられるのである。
自分探しとか幸せ探しという甘ったるい言葉に騙されて、「功徳大天」のような魅力的な存在に騙されてしまうのだろう。浄土とは楽と苦を超えた世界であり、その真実なる浄土から届けられ、なんまんだぶと称えられ耳に聞こえて下さるのが聞其名号信心歓喜ということの意味である。声と言葉になって届いて下さる、名号となった如来の信心を歓喜する一念に、衆生の往生は決定するのである。
世間の坊さんや人々は、原発とかいじめの問題とかヤスクニっとか差別を論じて右往左往しているのだが、我が御開山は、正と邪を論評して正義の立場に立つのではなく、真実とは何かを洞察されたのであった。
AvsBではなく、AとBを超えて包摂するという法蔵菩薩の菩提心の別願である本願に、真実の菩提心を見出され、それを本願力回向という言葉によって阿弥陀如来の本願の意味を表現されたのが御開山であろう。
まあ、電信柱よりはキレイな姉ちゃんがいいけど、電信柱があるからこそ酔っ払っての書込みも出来るんだな。
なんまんだぶ、なんまんだぶ、なんまんだぶ……